同族嫌悪2023

1年半ほど前、毎日のように通話をしていた。田舎から進学のため上京してきてさみしいひと、親とうまくやっていけておらず家に居場所がなさそうなひと、最近男に振られて鬱を拗らせたひと、ネットにしか友だちがいないひと、色々いた。女ばかりだからか、そういうのを避けてここにいるはずなのに、3人いれば2:1になる。これって本能的に生物学上女性とされる人間の頭に組み込まれているのかと疑いたくなるくらいにはよくある。排他性がやわい言葉の隙間から覗く。わたしも例に漏れずその気がある。
ずっとその関係が続くわけもなく、いつのまにかその集まりはなくなった。わたし自身がそのコミュニティの中のひとりを気まぐれで拒絶したのは、明らかにその軋轢の原因のひとつだったと思う。そういう身勝手さが全ての行動の根底にある。わたしひとりが欠けてもコミュニティはどうせ続くだろうと思っている。それ自体は絶対的に間違いではないだろう。
あの場にいた人間の半分以上が何らかの精神病を抱えていると自称していた。本当かどうかは知らない。そもそも精神病患者を精神病患者が介護していた高架下のような場所で健全な進展があるわけがないし、あのコミュニティで大学生活を腐していくことに意味はなかっただろう。フォロワー間で付き合って別れて、とか、馬鹿らしい。
二つ上の女性に倫理観について説教されたことがある。正直琴線に触れたなにか、がなんだったのかいまだにわからない。何を言ったかそもそも覚えていない。いちいち、夜半に発狂しかけているひとのツイートに心配のリプライなんかしないくせに、なんて思ってきいていた。彼女は通話を終えたあとに、言いすぎたかもしれないけど本当だからね、ってツイートしていた。スルーした。彼女は、噂によると新卒就職したあと会社を辞めてしまったらしい。真偽のほどは定かではない。

近頃、自身の屈折をわざわざ文字に起こしてその日の自責のネタにするような人と関わらないからか、自分がすこしだけちいさく見える。新しい界隈に足を踏み入れたからかもしれない。ちゃんと自身と他人を分けて考えることができる人がたくさんいて、すこし感動した。大人がたくさんいた。

ひとの内面について、正解に辿り着くことも正解が提示されることもないはずなのに、不躾にひとのありもしない心臓をまさぐっている。そうして自分とその人との距離感を掴みながら、都合のいいイメージを捏造して膝の上に置いておくことは、ここ数年で身につけた一種の自己防衛だった。作り上げたとしてそれが正解だとは思えないし誰かに強制するつもりもない。ただ、もともと私の信心なんて、他人の解釈で揺らぐような脆弱なものなのだ。彼彼女が変わらずにいることなんてありはしないし、その変化と作り上げたものの齟齬で歯軋りしてるのに、わたしはそちらを選ぶだろう。だからこそコミュニティから浮くであろう未来、またはそう自分が感じる未来が察せ、実際そう言われているのを見た。みんな意外と好き嫌いしない。嫌いなものを口に出さないだけかも。リテラシーがあるってきっとそういうことだ。誰かとの関わりの中で見えてくる性格を肯定できない。自分が、他人の言葉にすぐ惑わされて人の言葉を借り、思ってもいないことを話すせいかもしれない。世間の人々もそうあるのかどうかは、わからない。思考と話している言葉が一致しない、という言葉だけは、ちゃんと一致している。
大学を辞めたのは、親にほとんど強制されて入学したために諦めた心理学を学びたかったからでもある。自分自身を一般化された言葉で分解したい。客観性で切り分けたい。学問に期待を託しすぎているかもしれない、今まで学問に裏切られたことがないから(努力が足りていなかっただけで)、そんなことを思うのかもしれないが。人生で全能を感じた瞬間が小難しい英作文をさくさく解けた時だけなのだけれど、みんなどうなんでしょうか。たまに自分頭いいかも！って思う瞬間がないとやっていけない。わたしは。ちゃんと共テの確認ハガキがきました。めちゃくちゃ心配だったからとりあえず第一関門突破。おめでとう。

近頃は倫理と鬱と自意識と群れバトルしてる。異端ぶるのをやめたい。異端なのではなくて、ただの精神病でありたい像に縋っているだけです。客観視とかいうそういうポーズを取るだけの行為は、怖いからしない。逆に、最近は他人の生態に興味がわく。気に入らなかったら切るし、切られるだろうし、いいだろうと思って気になったひとをフォローするようにしている。TLがとても楽しい。ひとの頭を覗き見るように配信とかスペースとかツイキャスとかnoteとかはてブとかを聴いて読んでいる。なにか残してくれているみんな、いつもありがとう。配信に頼っていた頃よりもひとりでいる時間が増えたから、とても助かっています。みんななんだかんだ生きてるじゃん、を確認する機会がたくさんあってうれしい。よく、いつ死ぬか、なんて不毛な話題が出る。蛇足なんだからどこまで伸ばしても数字は更新されないだろ！って元気なときは思うようにしている。勉強も最近は何も考えないようにするためのツールと化してきている。音楽も、本も、映画も、結局そう。性接触はそもそもそのカテゴリにある気がする。だってどこまでも非生産的だし、意味がないし、そのくせリスクが高い。性依存はアル中のことを馬鹿にすべきではない。馬鹿にしてはいない。誰でもよくないひと、ってよく使うけど、どういう考えなのだろうと思う。誰でもよくなかったら性風俗で働かないのかもしれないし、先に健全な交際がないマッチングアプリのそれを敬遠しているのかもしれない。そもそも性的な事柄について忌避感があるのか？
別棟のオタクたちについて扱った配信を見ていて思ったのだけれど、異性との接点がないことと性欲がないことは必ずしも一致しないらしい。性風俗に行けば早いんじゃないかと思ったが、そこには忌避感があるらしい。性病もらいたくなかったら年度初めに新しく入った18歳を探せばいい。年齢詐称については、知らない(わたしは詐称してない、だから同僚の本当の年齢すらほとんど知らない、表記が本当なのかどうかもわからない)。好きになったかわいい女の子がソープ嬢だったらお前たちはどうするんだ。そこも含めて好きになれるのか？たいていスレてるから好きになることがない、とか、そういうことじゃない。そう深い関わりもないFFとそれ以外も含めて数人、性経験がないという点で別棟の傾向があると自認している人を見かけた。わたしは待機室でコウの配信を見ていたし見ているので、その点、彼らとは遠いところにいると思っている。上下じゃなくて左右に。その状態でライバーにユニコーン的思想を抱えることは一種の矛盾を孕んでいるのではないかと考えていたりもする。けっこう気持ち悪い。誰でもいいひとは誰でもいいひとと付き合うべきだという考え、限定的すぎるがそんなに間違ってはいないと思う。誰でもいいひと同士でくっついてさっさと性病検査受けに行けばいい。

やることをたくさん作って脳を殺すのが鬱との格闘においてのポイントです。でも今日は休みにする。数学がうまくいったから。

卯月コウ、俺を殴ってくれ

ティーンエイジの後半戦、卯月コウに出会った。UFOを探す配信が理転で苦しんでいた夏を救ったこと。成績が伸びない苛立ちをぶつけるようにEgNを鍵垢で叩いたこと。受験直前、3Dのまぶしさに勇気をもらったこと。お便りを読んでもらったこと。大学に馴染めずすぐに帰宅して見たネジキ。義父母との食事会から急いで帰って途中から見たFANTASIA。まだまだ思い出はある。人の声を欲して、または叱責の声を遮りたくて、メン限の雑談を聞く。生活の中心に彼はいた。いつだってひとつのコンテンツに三ヶ月も留まることがないわたしが初めて年単位で追うことができたコンテンツだった。卯月コウ。わたしの人生の、例外的に過密した五年に、常に新しさをもたらしてくれる存在。都合のいいときにだけ彼を頼り、将来への不安を彼への屈折した感情にすり替えて拗らせ、つい一年前まで自分以外の軍団と接することなくコウでお人形遊びをしていた。この文章は、その懺悔でもある。

常に不安なわけはない。音楽活動はわりとうまくいっているし、素敵な配偶者にも恵まれたし、大学に無事に復学できたし、たくさんの人と知り合えた。しかし同時に、ひとりでいる時間がどうも惨めに思える。自己顕示欲で突飛なことをしてみたりする。普段生活していて、女性性を全面に押し出すことばかり考えているアバズレには、卯月軍団と名付けられたコミュニティに無性別の文字として収まることはすこしだけ難しかった。本当は性別がどうだとか考えなくてもいい、(インターネットでそう振る舞うべきとされている)男性的な口調で、人の目を気にせずにおもしろいものをおもしろいと言うことが本当は楽だった。考えなくていいから。けれど、画面から目を離した瞬間に、イヤホンを外した瞬間に女性性を意識せざるをえなくなる。その乖離で拗らせる。軍団にはわたしとはまた異なる重い気持ちを、彼に向けている人がたくさんいるらしく、ただ、それが個人名と結びつくのが怖かった。彼ら彼女らにも生活がある。高校卒業直後にレールから逸したわたしは、彼の声が聞けなくなった。だんだんと眩しくなって真人間的なやさしさがわかりやすくなり、それに気づかないためのノイズに気を取られることがなくなり、人と関わりを持ち始めたコウにわたしはついていけなくなった。都合よく付き合うことは、本人の深いところに目を向けることとは並べない。それに気づいて、コウを誹る前に離れなくてはとYouTubeのアカウントに紐付けてあったGoogleアカウントごと消去した。

離れていた間、コウを新しく見始めたであろう女オタクを別の界隈で何人も観測した。わたしはにゃるらを信奉しているサブカルと不幸を気取っている女オタクが心底嫌いだ。その類の女オタクがこぞってコウを褒め称えていてすごく、すごく不思議な気持ちになった。わたしも他人から見たら同じようなものなのかもしれない。恐ろしい。コウのことをアクセサリーか何かだと心のどこかで思っているのかもしれない。大抵、気づけない。彼はお前が期待しているような道端の花を踏み散らすような人間ではないよ、とか、言ったとして、何になるのだろう。

再び興味が湧いたのはアイドリッシュセブンを扱った配信だった。比較的ちゃんと履修している魔法使いの約束とライターさんが同じだということは知っていたので、なんとなく興味を持って見始めた。腐女子がCPを見出しうる箇所を取り沙汰しては叩かれるようなことがないといいなとさえ思っていた。わたしは、女性向けコンテンツにそういうCP的思想を見出す楽しみ方ばかりするダメなオタクで、かなり地雷がはっきりしているから、なんとも、コウとCP的意図を抜いても思想が合わなかったらなと思いつつ、やはり気になって配信を見た。見事にユキが刺さった。よかった。思想を違えて発狂、みたいなことはなかった。
個人的に、ユキとモモの下積み時代というか、ユキが志津雄の車を洗車してるシーンがめちゃくちゃ良かった。人間味のないというか、才能と顔で十分食っていけそうな人間が汗水垂らして誰かのためにせかせか働いてるシーン、良かった。あと、ベタだけど、事務所を辞めたTRIGGERが路上ライブするシーンも良かった。そのこともあってIn the meantimeがアイナナの曲でいちばん好き。コウの話もよく聞かず、めちゃくちゃにのめり込んでしまった。

その時期は精神的に安定していたので、わりと穏やかな気持ちで秋を迎えられた。FANTASIA。EgNを見たときに感じた劣等感というか、眩しくなるにつれて深まる暗い気持ちが薄かった。ある程度自分の生活に満足がいっていたからかもしれない。旦那のご両親と歓談しながら、心中めちゃくちゃ早く帰りたかった。ガチ恋粘着獣の林檎と重なってそんな自分にちょっと引いたけど、彼は別に嫌そうな顔をしなかった。わりとそういうところがある。
らしさ、良かった。「変わりゆく生活が正しい」、重すぎる。そこを肯定してしまうか、お前が、しかしそれを指摘するにはわたしもコウに出会った時から変わり過ぎていて、なんとも。変わっちまったなって、どの口が言うのだろう。心象は凪いでいて、それでいて、変わっても愛されている自覚を持っている彼にちょっとだけ嫉妬した。

毎年、コウの誕生日に手紙を書く。間に合うように届いたことはない。年に一度送りつける呪詛だが、もしかすると検閲で弾かれているかもしれない。それくらい酷い。一度も彼の手元に届いていないのかもしれない。知る術はない。ファンレターなんて自己満足にすぎない。

色々あって六月、やっと諦めがついたのでこの世を脱するべく試みたものの人間の生命力に負けて生還した。その日の早朝にEgNのアーカイブを見た。眩しいものを見て、こうなれなかったなと思いながら死ぬのもなかなかいいなと思っていたのだが、残念ながら生還してしまった。入院中はコウと新人の男性ライバーを半々くらいの比率で見ていた。コウに縋りすぎるのはよくないかなと思って他の依存先を探した。配信がおもしろい。女性比率が異常に高いからか、今までVの文化に触れていないリスナーが多そうだからか、リスナーの雰囲気が違いすぎる。もう三ヶ月ほど経つというのに全く馴染めない。配信はおもしろい。平均的に歌が上手い。なんだか新鮮だった。

夏が過ぎ去って、FOCUS ONがリリースされた。思想表明のための音楽に思うところがあり、一応音楽を作る側の人間ではある。もちろん消費する側でもある。消費という行為はすさまじく、どれだけ視聴前に待望していたものであっても日常に溶かしきってしまう。それを望んでいるものとそうでないものがある。
FOCUS ONは間違いなく後者だった。タイミングは選びたい。実際5回も再生していない。これを書き始める前に放課後シャングリラを一度聴いた。良い。何者は、正直よくわからない。わからないって感想を憚っていたが、やっぱりわからないものはわからないので使わせていただく。
今まで散々明言されてきたその救いを都合よく聴き流してきたオタクをついに掬い上げてしまうのか、お前は……と思った。冒頭に書いた通り、ここ数年卯月コウに気持ちを軽くしてもらっていた。画面の向こうにしかいないという安心がある。わたしには直接触れてこない。その安心感をコウ自身は知っているのだろうか。そんなこちらの気持ちをいとも容易く払うようなその歌が、まっすぐに刺さる。言外の意図を考慮するまでもなく、愚直に、連れ出すよなんて歌ってしまう。ポジティブな感想だけをツイートして、ちょっとだけ泣いた。深く考える前の気持ちを書き留めて安心したかった。ここまではっきりと提示された救いの手を自ら振り払ってしまうほどに何も学べていない自分に失望したくなかった。でも、気づいてしまったので、これはそういう懺悔だ。楽しい思い出に付随するのはいつだって嫌な思い出。凝り固まった女性性、嫌な女オタクの性格から抜け出せずにいる。わたしと同じくらい卯月コウのことを長く見ていて、いまだにおりコウをそういう気持ちから忌避している人間がどれだけいるのだろう。コラボを避けながらもいまだにコウに執着しているリスナーはどれだけいるのだろう。居づらいと思いながらも、いまだにコウの手に縋っている自分のことを許せているオタク、まだ生きているのかな。

ついこの間大学を辞めて、ろくに働きもせずに家に引きこもっているごみみたいな生活を続けている。過去アーカイブを消費しながら、数年前コウのことをただ好きで見ていた頃、高2で理転したときに見たUFOを探す配信で救われた時の気持ちを思い出している。負の感情だけが先行してしまっている現状を必死に変える必要はないだろうけど、少しでも自分が楽に彼の配信を見ることができるようにちょうどいい立ち位置を模索していくつもり。単純に卯月コウのことが好きだし、差し伸べてくれる手をどうにか取りたいと思いたい。取りたいと思える人が羨ましいから、そうなりたい。待ってろ。
あと、ひとりは読んでくれるかもしれないので宣言しておくが、今年度の入試で決めた国立大に落ちたら働きます。入試制度改革はクソ。約束だからな。